ちょっと辛口な映画レビュー。気ままに更新。

映画のレビューを中心にアップしていきます。なんでも見るけど、バイオレンスが好き。

「ドライヴ」:現時点で今年No.1の作品

 

現時点で今年No.1の作品。

友達に薦めたら「なんか途中からエグくない?まあまあ面白かったけど」と言われたが、僕の中では相変わらずのNo.1である。

 

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「ドライヴ」

★★★★★★★★★ 10点


 

この映画の良さは、一言で言えば「カッコよさ」。

どのシーンを切り取っても絵になる美しさ。スローモーションを多様した独特の映像表現。ピンクのネオンサインにユーロビートが響きわたるオープニング。アドレナリンの爆発するカーチェイス。そして劇中ほとんどセリフのない主人公。

ご覧頂ければわかるだろうが、全てが格好良いのだ。とにかくキマってる。

 

誤解のないよう言っておくが、この「ドライヴ」はカーチェイスがメインの映画じゃない。

確かに車に乗っているシーンは多いのだが、カーチェイスは劇中2回しか登場しない。(しかもそのうち1回はとても地味なもの)

アメリカで「ワイルド・スピードみたいな映画かと思ったのに違うじゃないか!」と訴訟されたという話は、相手の頭がおかしいとはいえまさにそれを物語っている。

また、過激なバイオレンス描写もあるので注意。

この映画のキャッチコピー「疾走する純愛」というのはあながち間違ってはいないが、決してカップルでは見ないように。

 

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主人公は凄腕のドライビングテクニックを持つドライバー。昼は車の修理工場で働き、夜は強盗を逃がす運転手。

そんな彼が、同じアパートに住むアイリーンという女性を気にかけるようになる。彼女は子持ちの母親で、夫は刑務所暮らし。好都合である。

次第に愛を育んでいく2人。

しかし、急にアイリーンの夫が刑務所から戻ってきてしまう。

夫は刑務所から戻ると昔の仲間に強引に仕事を依頼され、断ると家族まで危険な目にあってしまうことに。

主人公は彼の仕事を手伝うことにするが・・・。

 

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この「ドライヴ」は、余分な贅肉をゴッソリ削ぎ落としたシンプルな映画。

シンプルなストーリー。シンプルな登場人物。

主人公は最後まで名前さえわからないし、セリフも数えるほどしかない。生い立ちも謎である。

そんな主人公と愛を育むアイリーンとのシーンでさえ、2人がただ見つめ合って微笑んでいるだけだ。

そんなシンプルな映画だが、僕は「贅沢」な映画だとも言いたい。

「シンプル」と「贅沢」は相反するように聞こえるが、ここでいう「贅沢」さはストーリーや登場人物の話ではない。

時間の使い方、間の取り方が非常に贅沢なのである。

例えば、主人公とアイリーンが会話するシーン。前述の通り、2人のシーンはほとんど会話がなく、ただお互いを見つめ合っているだけ。その様子をゆっくりと、ゆっくりととらえているのである。

例えば、印象的なエレベーターでのキスシーン。このシーンは実際の時間にしてわずか数秒なはずだが、スローモーションで2人を非常にゆっくりととらえている。主人公が彼女を端によせ、手をまわし、ゆっくりと顔を近づける。美しくまるで夢のひとときのようなシーンだ。

例えば、主人公が不気味なマスクを被ってヤクザを追いつめるシーン。今にも殺人が起こるといった緊張感のある場面でも、この映画はたっぷりと時間を使う。無表情なマスクを被り敵をじっくりと見つめる主人公。ゆっくりと敵に近づく、敵も後に下がる、少しずつ歩いて追いつめる主人公、そして海に沈める。恐ろしい場面だ。

どのシーンを切り取ってみても非常に贅沢な時間の使われ方がしている。

そこがまた美しく格好良い。

 

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こちらがキャリー・マリガン演じるアイリーン。

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エレベーターでの美しいキスシーン。

 

この映画でもう1つ面白いのは「驚き」である。

主人公"ドライバー"は全てが謎に包まれており、彼がどんな人物なのか、観客は探り探り確かめていくしかない。

夜の強盗シーンを見ると、慎重で肝が据わった男なのだろう。

また、アイリーンと子供と一緒にいるところを見ると、優しくおっとりした性格のように見える。

しかし、映画が進んでいくと主人公の暴力性が徐々に明らかになっていくのだ。

「こういうのはどうだ。自分で黙るか、歯をへし折られて黙るか。」

それまで静かだった主人公から放たれたこの言葉は、たった一言なのにドキっとする瞬間だ。

そして中盤のモーテルでのシーン。敵から襲撃を受けた主人公は、凄まじいバイオレンスでもってこれを返り討ちにする。

極めつけはエレベーターでのシーンである。これはもう実際にご覧になってほしいが、それまで抑えられた暴力性が一気に爆発する恐ろしい瞬間である。

このように、観客には主人公のことが一切伝えられていないため、彼の行動1つ1つに驚かされることになる。

 

カメラワークもこれを意識して撮っているように感じる。

例えばちょっとした場面だが、車が故障して困っているアイリーンに主人公が近づいていくシーン。

大体の映画だったらまず車が故障したアイリーンを映し、次に主人公が近づいていくところを映すだろう。

しかしこの映画はその逆で、主人公が歩いていく場面から、最後に車が故障したアイリーンが映されるのである。

観客は原因と結果を逆に見ることになり、主人公の行動にまたちょっとした驚きを感じられる。

同じように逆の見せ方をするシーンがいくつかあるので面白い。

 

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不気味なマスクで敵を追いつめるシーン。

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 中盤のカーチェイスも見所。

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このシーンも凄いことになります

 

主人公"ドライバー"がいる場面は常に青い壁、暗い場所である。しかしアイリーンといるときは暖かい壁紙、明るい場所になるのだ。

セリフで語らずとも映像や音楽で主人公の気持ちを代弁させるあたりが美しい。

ただし1度だけ、アイリーンが"ドライバー"の暗い世界に引きずり込まれるシーンがある。

それは前述したエレベーターでの壮絶なシーンの直後である。

このシーンだけでも見る価値がある。

 

映像よし、音楽よし、キャストよし。

特にケチをつけるところはないが、好みは多少分かれる映画なのかもしれない。

僕はこの映画を見て興奮していろんな人に見せたのだが、みんな「面白いっちゃ面白いけど・・・」という返答だ。

まったく腹立たしい連中である。

とはいえ、この映画が素晴らしいのは事実なのでいろいろな人に見てもらいたい。

最高にクールでイカしたクライムサスペンスである。