「トータル・リコール」:オリジナル版に軍配も、十分に面白い作品
オリジナル版「トータル・リコール」は私の大好きな作品。
このリメイク版はかなり楽しめたが、比較するとややオリジナル版に軍配か。
しかしリメイク版の世界観は好きだし複雑に組み立てられたアクションシーンは非常に見応えがあった。
★★★★★★★☆☆☆ 7点
「トータル・リコール」はフィリップ・K・ディックの「追憶売ります」が原作。
あの「ブレードランナー」や「マイノリティ・リポート」の原作者だ。
1990年にポール・ヴァーホーヴェン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化され、大ヒットを記録してる。
オリジナル版では異様な世界観と悪趣味さ、つるべうちのアクションと壮絶なバイオレンス描写が魅力だ。
当時まだ売り出し中だったシュワルツネッガーの鬼気迫る演技も印象的だし、あの高騰感のあるテーマ曲も忘れられない。
映画全体が妙な色彩を帯びていてどのシーンを見ても一発で「トータル・リコールだ」とわかるほどだった。
それを今度は「ダイ・ハード4.0」や「アンダーワールド」のレン・ワイズマン監督がリメイク。
(興行的にはパッとせず終わってしまったのが残念)
リメイク版ではオリジナル版の世界観から大きく変化している。
まず「ブレードランナー」のような退廃として異文化な世界と、「マイノリティリポート」のようなバリバリのSFの世界の2つが登場する。
オリジナル版が赤みを帯びた色彩をしていたのに対し、リメイク版は青みを帯びたクールな色合い。
映像も格段にパワーアップし見応え抜群だ。
オリジナル版の悪趣味な面白さはないが、ワクワクするようなSFグッズをふんだんに盛り込むことで違った面白さを与えてくれた。
ゴミゴミした下界の様子。異文化なところが面白い。
浮いた車でのカーチェイスシーン。格好良い。
ロボットを操り主人公を追いつめるローリー。クール。
大きな戦争によって荒廃した近未来。生き延びた人類は、裕福層と貧困層の二極化が進んでいた。
工場労働者のクエイドは、毎日に嫌気がさしちょっとした楽しみを・・・と思い人工記憶を移植してみようと考える。
そこでちょっぴり怪しいリコール社に行って「実は自分はシークレットエージェントだった」という中2病な夢を見させてもらおうとする(笑。
(僕だったら迷わずエロい夢を見させてもらうだろう)
今にもお楽しみが始まる、というときに急にリコール社が特殊部隊に襲撃される。だがしかし、クエイドはなぜか急に強靭な身体能力を発揮しこれを返り討ちにしてしまう。
「実は自分は本当にシークレットエージェントだったのか?もしくはこれは夢なのか?」と疑問を抱きつつも、自分の記憶を求めて強大な組織に立ち向かっていくのだった・・・。
おおまかなストーリーはオリジナル版と一緒だが、舞台は火星から地球に交代している。
キャストもムキムキのシュワルツネッガーから細身のコリン・ファレルに交代。
どう見ても最初から強そうだったシュワちゃんに比べ、コリン・ファレルは"実はシークレットエージェント"な設定にピッタリ。シュワちゃんの迫力には勝ててないが、悪くないんじゃないだろうか。
敵となる妻役のケイト・ベッキンセールもなかなか良い。シャロン・ストーンのような憎たらしさがあったらもっと良かったかもしれないが、今回は登場シーンが非常に多くなっており嬉しい限り。
このケイト・ベッキンセールという女優さん、実は監督の妻だったりするので当然見せ場も多くなるだろう(笑。
そしてヒロインはリメイク版のが断然可愛い。オリジナル版はお世辞にも可愛いとは言いがたかったのでこれは嬉しい変更だ。
ただ、ケイト・ベッキンセールと似たような見た目をしてるのでもうちょっと違うタイプでも良かったんじゃないかとは思う。
最後に、肝心の悪役は完全にオリジナル版に軍配。リメイク版ではその辺にいるおっさんレベル。まあ悪役はおっさんよりもケイト・ベッキンセールが担っている感じなのかも。
そんなに強そうでないコリン・ファレル。役柄にはピッタリ。
こちらがケイト・ベッキンセール。この人にだったら殴られてもいいです。
アクションシーンは思いっきりパワーアップ。
凄いと思ったのは、劇中に登場する場所をちゃんと使いこなしたアクションが用意されていること。
ゴミゴミとした下界で屋根をかけまわる一連の追いかけっこ、未来の車での壮絶なカーチェイス、地球の裏側に移動する列車でのクライマックス、などなど。
僕が好きなのはカーチェイスと、エレベーター内での格闘シーンだ。
ビル内を縦横無尽に移動するエレベーター内で、縦横に細かく動きまわっての複雑なアクションシーン。非常に工夫されており見応え抜群だ。
どのシーンもとても良く出来ており驚かされっぱなしだった。
アクションは凄いのだが、リメイク版の問題点はドラマ性である。
こんなに面白いアクションシーンがいっぱいあるのに、どうも盛り上がらないのだ。
まず、淡々とした映画の進行。
これはもうちょっとした演出とかの問題なのだろうが、鬼気迫る場面や本来だったら盛り上がるべきシーンもどれも淡々としている。
さらに人物描写の薄さもこれを手伝って、登場人物の誰にも感情移入できなくなってしまった。
次に、この世界の設定にピンとこないのも問題。
戦争で荒廃し裕福層と貧困層が二極化している世界、という設定がいまいちピンとこない。
映画中でほとんど出てこなかったりするし、そこで「貧困層を救おう!」という展開になってもいまいちノリきれない。
それに比べオリジナル版は世界観がしっかり確立されていた。
悪役の目的とゲリラの目的もはっきりしていたし、主人公が途中から火星を救おうとする過程も自然だった。
だからクライマックスも非常に盛り上がったし、ラストのカタルシスも凄かった。
リメイク版のアクションシーンは確かに凄いが、結果的にオリジナルのほうが満足度が高くなってしまった。
こちらはオリジナル版。いろんな意味で鬼気迫ってます・・・!
まあしかしそんなオリジナル好きをクスっとさせてくれるオマージュを連発するのがこのリメイク版の憎いところ。
オリジナル版で火星にいた3つおっぱいの女もしっかり登場するし、シュワちゃんがでかい女に変身するあのシーンちゃんと登場。
それぞれちょっとずつ捻ってあって楽しませてくれる。
そして私が何より気に入ったのは、オリジナル版で出てきた「汗」のシーンである。(覚えてる人は少ないかな?)
これはリメイク版のほうが美しくドラマチックに仕上げてある。うーんこれは面白い。
是非ともオリジナルと見比べてほしいところ。
映画として盛り上がらないのがちょっとさみしいが、なんだかんだいって面白かった。
こんなに工夫されたアクションシーンが見られる映画もそうはないし、オマージュの豊富さも微笑ましい。
DVD買うかと言われると悩ましいけど、また見てもいいと思う。
リメイクとしては成功じゃないだろうか。